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風の物語 - エッセイ

風の物語

1998-2014

物語の始まり(新エデンの扉 第一章)

Copyright(C)2014 Seine Lukis Allrights reserved.

 外は風が強く吹き荒れていた。建築年数の経っている、建てつけの悪いガラス窓が風にあおられて、カタカタと音をたてる。その建物の中からは二人の男性の話し声が聞こえてくる。ひとりはもう年老いた、外国語訛りのする丁寧な日本語を話す男性であり、声が少し引きつっている。もうひとりは妙に落ち着き払っている、年の頃は三十代前半の男性の声だった。
「君は何て恐ろしいことを考えているんだ。神を試してはならない、神を疑ってはならないと、君が小さい頃から何度も教えてきたのに……」
「私には神が全能では無いことが、はっきりと分かったのです……。神が全能なら、何故、人間を完璧に創らなかったのですか? 人間が完璧なら、誰も傷ついたり、悲しむことも無いのに……。だから、私は封印されていた神々の力を手に入れたのです……」
「君は昔、天使の心を持った子供だったのに、大人になって心が汚れ、神に挑もうとしているのか……まるで天界を追放されたルシファーのように……」
 これは、教会の神父と信仰を捨てた青年、この物語の主人公との会話だった。

 少年はすべての人が幸福になることを祈っていた。
 やがて少年は大人になって、それが無理なことだと悟った。
 日本国固有の差別やイジメは青年の心を苦しめ歪めていった。
 ならば好きな人たちだけでも幸福になってほしい。
 堕天使は天使の鍵を手中に収め、エデンの扉を開く。

封印(シリウス戦記)

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 汝は私以外に主を持ってはならない。私以外の言葉を聞いてはならない。
 汝は絶えず我々と共に歩まなければならない。我々が絶えず名前を口に出さなくてもいいように。
 汝は我々の前に姿を現してはならない。我々が祈るための像を作らなくてもいいように。
 アイ・エヌ・アール・アイ、インリ。ナザレのイエス、ユダヤの王。
 我々が約束された安住の地を手に入れるまで、我々の希望を叶えつづけなければならない。約束が果たされるその日まで、私はあなたをここに封印する……。

争い(シリウス戦記2)

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 神は戸惑っていた。
 全てを知り尽くしている筈の神は戸惑っていた。
「私は敵が憎い。この男の仲間は私の家族を殺し、仲間たちも殺したのです」
 男はもうひとりの男を指差しながら、神に向かってそう言った。
「いえ、悪いのはこいつらです。この男の仲間は私の国を侵略し、滅ぼそうとしています」
 もうひとりの男は初めに言葉を発した男を指差した。
(「誰がこの戦争を始めたのか?」)
 神が二人に問い掛ける。
 その問い掛けに対し、二人の男は互いに相手から始めたと答えた。
(「私の力が必要なのはどちらだ?」)
 神はもう一度問い掛ける。
 二人の男は自分たちこそ、神の加護を受けるのにふさわしいと言った。
 神は戸惑っていた。何故、こんな悲惨な戦争が起きてしまったのか? 自分の知らないところで、何が始まったのだろう?
 そして、神は口を開く。
(「……全てを無に戻そう。両者とも滅びなければならない」)
 それを聞いたふたりの男は、神に理由を尋ねる。
(「信ずる者の希望を叶えるのが神だからだ」)
 神はふたりの男、同じ神を信ずる者の訴え、申し出を受けることにしたのだった。
「私たちは何も悪くはない、悪いのはやつらだ」
「何を言っているんだ、我々は悪くない。悪いのはお前たちだ」
 神の前でふたりの男は言い争いを始めた。
 神は戸惑っていた。
 そして……全ての原因が絶対神である自分自身にあることを悟った……。

離別(シリウス戦記3)

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 一人の修道士が戦火の跡を歩いている。
 彼はボロボロの服を頭からすっぽり被り、俯いて歩く彼の顔は見えない。
 ただ、右手に持つ大きな杖からぶら下げた、修道士の証であるアンクだけが彼の存在を示していた。
 道端に力無く佇む生き残りたち……。
 彼は彼らに声を掛ける。
「弱い心を捨て、我と共に歩め……」
 彼に声を掛けられた者たちは、黙って彼の後に続いた。
 戦火の跡を修道士を先頭に歩き出した。
 幾日も歩きつづけた。
『お前の役目はもう終わった……』
 突然、天から神の声が聞こえた。
「終わった?」
 修道士は神に聞きなおした。
『そうだ、後は私に任せれば良い……』
 神の声は力強かった。
「……後は任せれば良い……。
 今更何を言っているのですか? 何故戦いから我々を、私を信じてついて来てくれた者たちを救ってくれなかったのですか?」
 修道士は天に向かって両手を大きく広げた。
『これは人類に与えられた試練なのだ……』
 神の声はどこか得意げであった。
「こんなに多くの血を流すのが試練なのですか? 私には神の悪戯にしか思えません。これは最低な悪戯です……。
試練なら耐えましょう……ですが、私はあなたを許すことが出来ない」
 修道士と彼を信じて共に歩いていた者たちは、この時、神を捨てた。
 そして、彼らは自分たちの力で生きるために、力強く歩き出した。

選択(シリウス戦記4)

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 偉大なる神が創ったこの星には二つの大きな国があった。
 東に位置する国は豊かであり、物質にとても恵まれていた。
 西に位置する国は貧しく、資源に恵まれていなかった。
 或る日、西の国から東の国へと旅立つ若者と、東の国から西の国へと旅立つ若者が国境で出会った。
「東には理想郷があるのです。私はこれから理想郷へと旅立ちます」
 と西の国の若者は希望に燃えた瞳で言った。
 それを聞いた東の国の若者は、心の中で東の国は理想郷では無い、と思いつつ、自分の理想郷を思い描きながら静かな笑顔を返した。
 東の国の若者と西の国の若者は、それぞれが理想とする国へと旅立ってゆく。
 或る日、この二つの国は些細なことで喧嘩を始めた。
「何が節約だ。そんな貧乏くさいことは我々の国でやっている者などひとりもいない」
 東の国の者たちは西の国の者たちを馬鹿にした。
「節約では無く、倹約です。浪費は馬鹿でも出来ますが、倹約は馬鹿では出来ません」
 西の国の者はそう言い返した。
「我々には便利な道具が沢山ある。それらの道具はお金を出せば誰でも自由に手に入れることが出来るのだ。便利な道具は馬鹿では作り出すことが出来ない」
 東の国の富める者が言った。
「我々は貧しくとも、皆で少ない資源を分け合う生活を送っている。誰が富んでいて、誰が貧乏などと言うことは無い」
 西の国の貧しい者が言った。
 東の国は富める者と貧しい者が共存している。貧しい者の中には、無限に存在する人生の選択肢の中から、己の死を選択するものが居る。
 西の国は全員が貧しいのだが、貧しい生活の中でも心だけは豊かであった。
 それらのやりとりを見ていた神は考える。どちらの言い分が正しいのか?
 神は深く考える。どちらが自分が創造した人間らしい生き方なのかと……。

接触(シリウス戦記5)

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「神はただ、黙って我々を見守ればいい……」
 或る日、ひとりの青年が神を前にして言った。
『無礼だぞ、黙れ』
 神を守る者が青年に刃を向ける。
『私が創りあげた世界を私の自由にして何が悪い?』
 神は口元で笑った。
「私には守りたい人たちがいる。彼らに手出しするのなら、私は神を許さない」
 青年は刃を気にせずに神を睨み付けた。
『私を許さない? 一体どうするつもりだ? お前に何が出来るのだ?』
 神は大声で笑い出した。この場にいる全ての神々も同じように笑い出した。
「何が可笑しい? 例え神と言えども不死身ではないのだろう?」
 青年は一歩神に近づいた。
 神は神を守る者を引き下がらせる。
 神を守る者は刃を下げて、神の後ろに下がった。
『どうした? もう邪魔はいないぞ。私を殺すためにお前は次元を超えてここまで来たのだろ? さあ、私を殺すがいい』
 また神々は大声で笑い出した。
「どうしても、殺されたいみたいだな……」
 青年は憎しみの目で神を見た。
『私を殺せるはずが無い……。何故ならば、私はお前自身なのだからな。私はお前の心の中に存在している幻なのだ……。私を殺せばお前自身が死ぬことになる』
 神は少しだけ、懐かしそうな表情を浮かべた。
「……」
 青年は複雑な思いになった。
『私はお前自身である……。私が死ねば、再び歴史は繰り返される……』
 神はその言葉を最後に青年の前から姿を消した。
 そして、青年は今までの人生を振り返った……。

回想(シリウス戦記6)

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 神は自分が創造した二人の人類を楽園から追放した日のことを思い出していた……。
 昔、神に刃を向けて天界を追放されたひとりの青年がいた。
 その青年は楽園に侵入して、神が自分に似せて造り出した生きた人形に知恵を授け、そして堕落させた。
 堕落した人類に対し、神は試練を与えるために楽園を追放した。神の意志に従わなかったがために人類は楽園から追放されたのだ。
 楽園を追放された人類は多くの子孫を残した。その子孫たちを天界から追放された青年は守りつづけた。
 だが、楽園を追放された人類とその子孫たちは青年のことを余計な真似をした堕天使と呼んだ。
 堕天使と呼ばれた青年は、長い時間苦しみ続けて閉ざされてしまった楽園への扉を人類のために開くことを決意した。
 しかし、それは再び神との戦いになることを意味していた。
 青年の意思を知った神は怒り、自分が創造した人類に災いを与え、神に従うようにと恐怖心を植え込んだ。
 青年は孤立した。楽園から救い出した筈の人類に裏切られて孤立した。そして神との戦いに敗れて、誰も知らないところで静かに魂だけの存在になった。
 それから長い時間が流れ去った。
 そして今、神は青年の魂が復活したことを知り、恐怖した。